Raspberry Pi 5で安定したファンレス化はできないか?
Raspberry Pi 5は熱管理が重要です。公式ではRaspberry Pi 5専用アクティブクーラーを採用しています。通常の用途であればRaspberry Pi 5用アクティブクーラーは1000円ぐらいなので、それを購入すればよい話ですが、Raspberry Pi 5で完璧なファンレスを目指した記事です。静音性と信頼性を兼ね備えたセットアップです。
Raspberry Pi 5の発熱問題
Raspberry Pi 5は、性能が向上した一方で、発熱量も著しく増加しています。Raspberry Pi財団の公式情報が詳しいので参考に紹介します。Raspberry Pi 5は高負荷時に冷却なしでは、すぐに85°Cになります。そしてサーマルスロットリングが発生します。アイドル状態でも65°Cというホカホカ仕様です。秒速でホッカイロです。

Raspberry Pi財団の公式情報:Heating and cooling Raspberry Pi 5 https://www.raspberrypi.com/news/heating-and-cooling-raspberry-pi-5/
アクティブクーラーを装着してもファンを動作させなければ、やはり85°Cに達してサーマルスロットリングが発生します。Raspberry Pi 5は実質的にアクティブクーラー(ファン動作)が必要である印象が強く残ります。

Raspberry Pi財団の公式情報:Heating and cooling Raspberry Pi 5 https://www.raspberrypi.com/news/heating-and-cooling-raspberry-pi-5/
一般的なアルミケースでの冷却性能
AmazonなどでRaspberry Pi 5のファンレス製品を検索すると、多くの類似したアルミケースが見つかります。GeeekPiなど、ブランド名が異なるものの基本的に同じような構造のものが多いです。
これらのアルミケースの実際の冷却性能はどうでしょうか?以下のYouTubeの比較動画を参考にします。ケース無しの場合は最大73.6°C、アクティブクーラーで最大57.6°C、ファンレスのGeeekPiケースでは最大67.5°Cとなっています。
ケース無しで最大73.6°ということは、控えめな環境かもしれません。ケース無しとGeeekPiファンレスケースでは約6°Cの温度差であるようです。グラフでは温度がまだ上昇途中であり、実際にはもっと高温になるでしょう。

Raspberry Pi 5 Cooling: Official Case vs Geeek Pi Heatsink Case https://www.youtube.com/watch?v=vYUF1H-_7TQ&t=577s
以下noteなどのRaspberry Pi 5のファンレス検証の記事です。記事①では最大62.80°C、記事②では最大70°付近という結果です。詳しくは記事を参照してください。
①ラズパイ5はファンレスケースで使えるか?
https://note.com/ryobeam/n/n3c1d5005f23e②RaspberryPi5の発熱調査
https://tsuzureya.net/raspberrypi5-heat-comparison-with-pi4/
そんな感じで、ファンレスのアルミニウムケースでは、室温20~30°Cの環境で本体温度は60~70°C程度になるようですね。GeeekPiケースを私も個人的に所有しておりますが、60~70°Cという体感は一致します。
70°はちょっと熱すぎますよ。50°~60°ぐらいにしたい
半導体的には、問題のない温度と思われますが、70°Cは触ると熱っつう!となる温度です。人類としては、心配になる温度です。理想的には50~60°C程度に温度を抑えたいところ。通常のアルミケースだけの放熱では、限界があることは明白です。
ファンレス製品を調べてゆくと産業向けのRaspberry Pi 5用冷却システムとして、ヒートパイプと大型ヒートシンクを組み合わせた製品があります。PCのCPUクーラーのような銅製ヒートパイプにヒートシンクを接続した本格的な冷却システムです。
メーカの実測データによれば、室温27°Cの環境でも最大温度56°Cという驚異的な冷却性能を実現しています。ファンレスながらRaspberry Pi 5用アクティブクーラーと同等かそれ以上の冷却性能を発揮しています。
以下資料①に室温27°C、②にヒートパイプ+ヒートシンク構成であること、③に56°という資料です。Raspberry Pi 5で完全なファンレスを実現するには、ヒートパイプ+ヒートシンクを繋げるというのが一つの答えかもしれません。
Entaniya Raspberry Pi 5用 ヒートパイプ + フィン
https://e-products.entaniya.co.jp/list/raspberrypi-raspberry-pi-related-products/heat-sink/hp-pi5/heatpipe-heatsink-pi5/
完璧なファンレスだけを考える
さて実際に「ヒートパイプ + フィン Raspberry Pi 5用 【A107】 RP-HC-02+ハムニカケースセット」を検証してみたいと思います。それぞれ部品ごと個別に購入できますが、専用ケースが必要になるため、ハムニカケースセットも一緒に使ったほうよいでしょう。
これらをそろえるとRaspberry Pi 5本体よりも高価です。完璧なファンレス環境を構築するという目的であり、極限の静音性と冷却性能を追求する場合、妥協は許されません。ファンレスのためにすべてをささげる必要があります。
ヒートパイプ + フィン Raspberry Pi 5用 【A107】 RP-HC-02+ハムニカケースセット
https://entaniya.shop-pro.jp/?pid=183837467
Raspberry Pi 5本体にヒートパイプが付いたヒートシンクを取り付けます。もうこれはCPUクーラーです。冷却システムの中核となるのはヒートパイプです。ヒートパイプ技術は、熱を効率的に伝達するために設計された密閉された金属管です。その内部には液体が含まれており、熱を吸収すると気化します。気化した蒸気が圧力差によってパイプ内を熱源から離れる方向へ移動します。
熱伝導シートを張り銅製のプレートで固定します。熱伝導シートは、熱源とヒートシンクの間の隙間を埋めます。隙間があると熱伝導率が悪くなります。さらに銅製プレートも高い熱伝導率です。このようにみっちりと固定する構造も冷却のポイントです。
さらに熱伝導シートを貼ったヒートパイプを取り付けます。
さらにプレートでヒートパイプをしっかり固定します。産業部品っぽくなってきました。
最後に大型の冷却フィンを取り付けます。冷却フィンの役割は、熱を空気中に放散するための表面積を増やすことです。放熱量は表面積に比例します。表面積が2倍になれば、理論上は放熱量も2倍になります。ヒートパイプで冷却フィンに熱を効率よく伝え、冷却フィンで効率よく冷やします。
フィンにより放熱の面積が広がっていますので、冷えないわけがありません。
次にハムニカ上のケースを取り付けます。爪を合わせるとケースになります。
完成しました。産業向けの製品のため半完成品キットのようになっております。Raspberry Pi 5に何かしらの追加機材をつけたり、DINレールに取り付けたり柔軟なカスタマイズが前提となります。
冷却性能評価:400%負荷ベンチマーク結果の分析
Raspberry Pi 5に最大負荷をかける400%負荷ベンチマークテストをしてみます。こちら試作中の機材です。一脚にDINレールで取り付けています。
このテストで使用したストレステストは、Raspberry Pi財団が公式に提供しているサンプルコードを使いました。Raspberry Piの冷却性能を評価に最適です。
Heating and cooling Raspberry Pi 5:
https://www.raspberrypi.com/news/heating-and-cooling-raspberry-pi-5/
仮想環境を準備して実行します。4コア全てに100%の負荷をかけました。Raspberry Piが処理できる最大の計算負荷です。実際のユースケースではありえない極端な条件であり、冷却システムにとって最も状態です。
ベンチマーク結果は、以下の4つの値からなるデータセットとして記録されています。
- 時間(秒): テスト開始からの経過時間
- 温度(°C): CPU温度
- クロック(MHz): 現在のCPUクロック周波数
- スロットリング状態: 熱による性能低下が発生しているかどうか(False=発生していない)
今日の気温は21°です。テスト開始時、Raspberry Pi 5のCPU温度は約32°Cでした。室温が21°Cであることを考えると、アイドル状態で約11°C高い温度になります。 初期段階でのクロック周波数は1500MHzでした。Raspberry Pi 5の最大クロックは2400MHzです。
テスト開始時の状態
———————————————————
0,32.9,1800,False
1,33.4,1500,False
2,32.3,1500,False
3,32.9,1500,False
4,32.9,1500,False
5,32.3,1500,False
6,32.9,1500,False
7,31.8,1500,False
8,32.9,1500,False
9,33.4,1500,False
10,32.9,1500,False
———————————————————
テスト開始から約400秒(約6分)経過すると、CPU温度は52°C程度まで上昇しました。これは温度上昇としては約20°Cに相当します。CPUクロックも2400MHzに到達しています。Raspberry Pi 5は最大のパフォーマンスを維持しています。手で冷却フィンを触るとほんのり暖かい感じです。
———————————————————
458,52.1,2400,False
459,51.6,2400,False
460,52.7,2400,False
461,51.0,2400,False
462,51.6,2400,False
463,52.1,2400,False
464,52.7,2400,False
465,52.1,2400,False
466,50.5,2400,False
467,51.0,2400,False
468,52.1,2400,False
———————————————————
テスト開始から約1000秒(約16分)が経過すると、システムは熱平衡状態に達しCPU温度は54~56°C程度で安定しました。CPUが生成する熱量と、冷却システムが放散する熱量がほぼ等しくなった状態です。
———————————————————
1066,56.0,2400,False
1068,54.9,2400,False
1069,56.0,2400,False
1070,54.3,2400,False
1071,55.4,2400,False
1072,55.4,2400,False
1073,54.9,2400,False
1074,54.3,2400,False
1075,55.4,2400,False
1076,56.0,2400,False
1077,56.0,2400,False
1078,55.4,2400,False
1079,55.4,2400,False
1080,56.0,2400,False
1081,56.5,2400,False
1082,56.5,2400,False
1083,56.0,2400,False
———————————————————
その後も約6時間(24300秒)にわたって全4コアに最大負荷をかけ続けました。56°から57°を維持しました。最大クロック速度2400MHzで一貫して動作しています。熱スロットリングも一度も発生しませんでした。
———————————————————
24301,57.1,2400,False
24302,57.1,2400,False
24303,57.1,2400,False
24304,56.0,2400,False
24305,57.6,2400,False
24306,57.6,2400,False
24307,56.5,2400,False
24308,57.1,2400,False
24309,57.6,2400,False
24310,57.1,2400,False
24311,57.6,2400,False
24312,57.6,2400,False
24313,57.6,2400,False
24314,56.5,2400,False
24315,56.5,2400,False
24316,57.1,2400,False
24317,56.5,2400,False
24318,57.1,2400,False
24319,57.1,2400,False
24320,58.2,2400,False
24321,56.5,2400,False
24322,57.6,2400,False
24323,56.5,2400,False
24324,57.1,2400,False
24325,57.6,2400,False
24326,56.0,2400,False
24327,56.5,2400,False
24328,56.0,2400,False
24329,57.1,2400,False
———————————————————
室温が30°近い状況でもテストしてみたいところですが本日はここまで。CPUフルロードでRaspberry Pi 5のCPU温度を56〜58°Cに維持できました。スロットリングが発生する温度85°Cよりはるかに低い温度です。動作温度が低いことから電子部品の寿命も保たれることでしょう。
ちょっと高いファンレスケースですが、検証結果としては、CPU最大負荷条件下でも無期限に最適なパフォーマンスを維持できる堅牢な冷却システムであることが確認できました。安定した温度を長時間維持できることから、何ヶ月あるいは何年も連続稼働が求められる産業用アプリケーションに理想的です。
ファンなどの可動部品や追加電力を一切使用せず動作することも魅力です。録音スタジオや図書館、精密な科学測定を行う研究施設など、静寂と安定した温度環境の両方が求められる場所でも価値があります。工場の制御システムや24時間稼働のサーバーでも安心して使用できるでしょう。
試作はつづく