産業用途におけるコンピュータビジョンの需要は年々高まり、特に3Dステレオビジョン技術はロボット、検査、測定など多様な分野で活用されています。Raspberry Pi 5とカメラモジュールV3を使い、コストと実用性に優れたフォーカス機能付きステレオビジョンを構築します。Entaniya製品で構築しました。参考にどうぞ!

Raspberry Pi 5を使いたいけど、イマイチ使い道が見つからない。そのような状況を含めてRaspberry Pi向けの既存資産を活かしつつ、コストと実用性のバランスを重視しました。より高精度なステレオビジョンを必要とする場合は、グローバルシャッターカメラや外部同期機能、専用同期回路を備えたカメラの使用が理想ですが、安価なRaspberry Pi カメラモジュール V3でここまで綺麗に撮れるので参考ください。

Raspberry Pi 4からRaspberry Pi 5へシステムの移行は、発熱や周辺機器接続など新たな課題も発生します。弊社では産業工業向けにこれらの課題を解決いたします。機器の組み合わせなどお気軽にお問い合わせください。

実際のライブ映像(3840×1080@30fps)を録画したサンプルを用意しました。HMD(ヘッドマウントディスプレイ)で3D SBS(サイドバイサイド)再生することで、立体視体験が可能です。画質やフォーカスの動作を確認できます。なかなか高画質ではないでしょうか。Raspberry Pi カメラモジュール V3はなかなか良いですね。

 

1.Raspberry Pi 5でステレオビジョン3Dカメラを作るための課題と解決策

ステレオビジョンの構築において、最初の課題は2台のカメラを正確に配置することです。Entaniyaステレオカメラプレートで解決できます。ステレオカメラプレートは、Raspberry Pi用のカメラモジュールを2台並列に取り付けできます。高剛性を実現するアルミダイキャスト製プレートです。堅牢で安定したステレオカメラを構築できます。

プレートはスライドによる瞳孔間距離(IPD)の調整が可能です。調整可能なレンズ間距離は54mmから74mmです。撮影目的に応じて最適な距離を設定できます。ほぼすべてのRaspberry Pi カメラモジュールに対応しています。Raspberry Pi カメラ V2 / V3 / V3 Wide、Raspberry Pi カメラ HQ、Raspberry Pi グローバルシャッターカメラ、Entaniya VR220、同サイズ基板のカメラモジュールに対応します。

Entaniyaステレオカメラプレート
https://entaniya.shop-pro.jp/?pid=183761351

 

2.Raspberry Pi 5の発熱問題とファンレス化の実現方法

Raspberry Pi 5は従来モデルと比べて処理性能が大幅に向上しました。同時に発熱量も増加しています。特に動画処理などの高負荷作業では、単純なアルミ製ケースでは放熱が追いつかず、動作不安定やサーマルスロットリングによるパフォーマンス低下を招くことがあります。

この問題を解決するためには、Raspberry Pi 5用 Entaniyaヒートパイプ+フィンによる冷却システムが効果的です。CPUやチップセットから発生する熱をヒートパイプで素早くフィンへ移動させ、広い表面積を持つフィン部分で効率的に放熱を行うことができます。ファンを使用せずに静音かつ省電力で冷却が可能です。動作音を気にせずにシステムを運用したい環境にも最適です。ファンレスでRaspberry Pi 5を安定して稼働できます。

Raspberry Pi 5用 Entaniyaヒートパイプ + フィン
https://entaniya.shop-pro.jp/?pid=183837467

検証記事はこちら
https://techietechnology.co.jp/2025/04/24/the-most-powerful-and-complete-fanless-case-for-raspberry-pi-5/

 

3.Raspberry Pi 5のカメラケーブルの延長方法

Raspberry Piに接続するRaspberry Pi カメラモジュールは、通常FPCケーブルを使用します。このケーブルには長さの制限があるため、本体とカメラを近接して設置する必要がありました。

Entaniya CSI-HDMI変換モジュールを利用することで、カメラケーブルを最大2mまで延長できます。これによりRaspberry Pi本体は操作やメンテナンスがしやすい場所に、カメラモジュールは撮影に最適な位置に配置することが可能になります。HDMIケーブルは取り回しやすく、長距離でも信号の安定性が高いため信頼性のあるカメラ設置が可能になります。

Entaniya CSI-HDMI 変換モジュール
https://entaniya.shop-pro.jp/?pid=183260552

 

4.産業用途のためのDINレール取り付けと安定電源供給の実現

産業用途でRaspberry Piを利用する場合、安定した電源供給と堅牢な設置方法が求められます。特に制御盤や機械設備内での使用では、DINレールへの取り付け対応や信頼性の高い電源供給が不可欠です。このような現場に対応したものが、Entaniya DINレール対応ケースとEntaniya USB-C電源ケーブルです。

オムロンのスイッチング・パワーサプライは、DINレールへの取り付けに対応しています。産業機器との親和性が高い電源です。しかし通常はUSB-C端子に対応していません。USB-C端子に対応したEntaniya USB-C電源ケーブルを使用することで、Raspberry Piへ安定した5V/3Aの電源供給が可能になります。

突発的な電圧変動やノイズの影響を抑え、長時間の連続運転でも信頼性を確保したオムロン製スイッチング・パワーサプライをRaspberry Pi 5の電源として利用できます。

Raspberry Pi本体を収納できるEntaniya DINレール対応ケースは、DINレールへ接続できます。これにより産業用途における拡張性も大幅に向上します。制御装置、監視システム、IoTゲートウェイなど、Raspberry Piを活用した産業システムの構築において、DINレール対応とオムロン スイッチング・パワーサプライの利用が可能になります。

オムロン製スイッチング・パワーサプライ対応のEntaniya DINレール対応ケースとEntaniya USB-C電源ケーブル
https://e-products.entaniya.co.jp/list/cable-connectors/switching-and-power-supply/

 

5.Raspberry Pi 5でステレオビジョンシステムを構築

Raspberry Pi 5のOSはRaspberry Pi OSです。カメラにはRaspberry Pi カメラモジュールV3を使います。まずRaspberry Pi 5を仮組をして、OSとカメラが動作するかテストしておくと安心です。OSなどセットアップを済ませてRaspberry Pi Camera Module 3をRaspberry Pi 5に接続します。

rpicam-hello –list-camerasでカメラが正常に認識されているか確認します。カメラの認識が確認できたらRaspberry Pi 5用 Entaniyaヒートパイプ + フィンを取り付けます。説明書に従いセットアップします。

詳しくはこちら
https://techietechnology.co.jp/2025/04/24/the-most-powerful-and-complete-fanless-case-for-raspberry-pi-5/

完成しました。

Raspberry Pi カメラモジュールV3とCSI-HDMI変換モジュールをスライドカメラマウントに設置します。

スライドカメラマウントをステレオカメラプレートに設置します。レンズ間距離は54mmから74mmの範囲で調整できます。74mmはこのような感じです。

54mmまで近づけることができます。

プレートには複数のカメラネジ穴があります。カメラネジを利用することで三脚などに簡単に設置できます。水準器を設置して水平をチェックします。

DINレールに対応したケースを組み立て、Raspberry Pi 5とCSI-HDMI変換モジュールを設置します。

付属しているAC電源ケーブルとUSB Type C電源ケーブルをオムロン スイッチング・パワーサプライに接続します。

AC電源ケーブルはLとNへ。USB Type C電源ケーブルの赤(+)と黒(-)をそれぞれ確認して接続します。

オムロン スイッチング・パワーサプライにAC電源ケーブルを接続することで、Raspberry Pi 5へ電源が供給されます。Raspberry Pi 5ケースと電源はDINレールへの取り付けが可能です。CSI-HDMI変換モジュールによりカメラケーブルを最大2m程度まで延長できます。このような構成で柔軟に設置ができます。Raspberry Pi 5のカメラが延長できる点は素晴らしいです。

 

6.映像の送受信テスト、動作やシステム負荷の確認

Raspberry Pi 5から2台のRaspberry Pi カメラモジュールV3の映像をそれぞれ送信します。映像受信側はWindowsです。それぞれ個別に受信してSBS形式で表示します。カメラ制御にはpicamera2、映像の送受信はgstreamer を使用します。picamera2を利用することで、映像を配信しながらフォーカスやシャッタースピードなどカメラ設定を変更できます。

各カメラからH.264ストリームをUDPで送信します。ポートは5000と5002を利用します。SSH経由でカメラをリモート操作します。カメラは1920×1080@30fpsで撮影し、受信側で3840×1080@30fpsのSBS映像として表示します。同期に関しては、スタートを同時にすることでなるべく合うようにしました。

Raspberry Pi 5のCPU負荷は約150%(4コア中の約40%)と低く、安定した送信が可能でした。2日間の連続稼働テストでも一度も停止することなく動作し、冷却システムと電源供給の安定性が実証できました。この電源システムは本当に安定しています。USB-ACの変な電源だと不安定になることもあります。

 

7.映像遅延の測定結果

特殊なLED信号による遅延測定器を使用して、エンドツーエンドの映像遅延を計測しました。測定経路は、カメラからRaspberry Pi 5を経由してネットワーク送信され、ルーターを通じてWindows側で受信・表示されるまでの全行程です。

・カメラ → Raspberry Pi 5 → ネットワーク送信 → ルーター経由 → Windows受信・表示

総遅延時間は約330〜350ミリ秒(約0.3秒)でした。これは有線ローカルネットワーク環境の結果ですが、WiFiなどの無線接続環境でも1秒以下の遅延で受信できる見込みです。

Raspberry Pi 5から3840×1080@30fpsの映像を0.5秒以下の遅延で伝送できることは、低コストのシステムとしては優れた結果と言えます。

 

8.HMDでリアルタイム視聴してみる

実際の立体感を検証するため、人間の平均的な目の間隔に近い65mmのIPD設定でカメラを配置しました。被写体として金色の招き猫をカメラから20cmの位置に配置し、その奥に30cm、50cm、70cm、100cmと異なる距離に物体を設置して奥行き感を確認しました。

単眼カメラでは奥行きの認識が困難ですが、ステレオビジョンでは空間の奥行きを直感的に認識でき、物体の立体的な配置関係を瞬時に理解することができます。

撮影した映像は、OculusやMeta Quest、PICOなどのVR/AR HMDで視聴できます。DeoVRなどのVR再生アプリをインストールし、以下のリンクから実際の映像(3840×1080@30fps、SBS形式、リアルタイム配信と同じもの)をダウンロードすることで、3D立体視体験が可能です。

ステレオビジョン動画サンプル
https://techietechnology.co.jp/wp-content/uploads/2025/06/PD標準capture_00-2025-04-03-13-57-36-256.mp4

実際のライブ映像(3840×1080@30fps)を録画したサンプルです。ダウンロードしてHMD(ヘッドマウントディスプレイ)で3D SBS(サイドバイサイド)再生することで3D視聴できます。画質やフォーカスの動作を確認できます。

HMDでリアルタイム視聴したところ、解像度が高く、手のひらの皺などの細部まで鮮明に識別できました。映像を見ながら、遠くの物体や手前の招き猫にピントを合わせるなど、注目したい対象を鮮明な立体映像で観察できました。

現状でも両カメラの開始を同時に実行することで、実用的なレベルの同期を確認できました。検証映像でも左右画像のずれは人間が3D視聴する上で問題ないレベルでした。実際の導入には、クロックやタイムスタンプ等を利用した何らかの同期処理や補正メカニズムの追加実装が必要になるでしょう。PTP同期など参考にしてください。

PTP同期
https://techietechnology.co.jp/2025/05/21/raspberry-pi-5-ptp-how-to-set-up-sync/

 

まとめ

Raspberry Pi 5とカメラモジュールV3を組み合わせたステレオビジョンシステムを構築できました。低コストで実績の多い組み合わせであるため導入障壁の低いソリューションとなるでしょう。特に中小規模の事業者にとってDINレール対応ケースとオムロン電源供給を組み合わせることで、産業環境への設置も容易に実現できる点も大きな利点です。

製造業における静止物の寸法測定や部品位置確認、農業分野での作物生育モニタリング、物流倉庫での商品ピッキング支援などの用途に適しています。アイデア次第で教育・研究機関では3Dビジョン学習の教材として、小売業では顧客行動分析ツールとして、また介護・医療補助分野では非接触の姿勢モニタリングシステムとしても応用可能です。

低コストながら実用的な性能を持つ3Dビジョンシステムとして、特に中小規模の事業者にとって導入障壁の低いソリューションとなるでしょう。DINレール対応ケースとオムロン電源供給を組み合わせることで、産業環境への設置も容易に実現できる点も大きな利点です。

つづく